下記、第2回ヒトゲノム編集国際サミットの最終日に公表された声明をとりいそぎ翻訳したので、掲載しておく。手直ししてまた別のところに掲載するかもしれないので、不正確なところがあったらお知らせください。
第2回ヒトゲノム編集国際サミット開催委員会による声明
2018年11月29日
2015年12月、米国科学アカデミーと全米医学アカデミー、英王立協会、中国科学アカデミーは、ワシントンDCで国際サミットを開催し、ヒトゲノム編集に関連する科学的、倫理的、ガバナンス的問題について議論した。その結論において、サミットの開催委員会は、現在の規制とガバナンスのプロトコルの枠内で実施可能な研究および臨床利用の領域を特定した。委員会はまた、現時点では次世代に遺伝する「生殖系列」の編集の臨床利用は、どのようなものであれ、実施することは無責任だと述べた。さらに委員会は、この急速に進展する技術の潜在的利益、リスク、監視体制に関して、国際的議論を継続することを求めた。
ヒトゲノム編集に関する深く踏み込んだ、かつ国際的な議論を促進することへのコミットメントの一環として、香港科学アカデミー、英王立協会、米国科学アカデミーおよび全米医学アカデミーは香港で第2回ヒトゲノム編集国際サミットを組織し、急速な科学的進展、可能な臨床応用、ヒトゲノム編集に伴う社会的反応について評価を行った。我々第2回サミット開催委員会は、体細胞ゲノム編集の臨床試験へ向けた急速な進展を歓迎する一方で、生殖系列の編集の臨床利用は、いかなるものであれ、現時点では依然として無責任である、と引き続き考えている。
ヒトゲノム編集研究
基礎研究および前臨床研究によって体細胞と生殖系列のゲノム編集の科学は急速に進展している。塩基編集(base editing)を含む、ゲノム編集技術のよりよい理解と設計により、効率と精密さにおいて大きな進歩があり、またオフターゲットの事象も大きく減少した。2015年に予期されたように、体細胞ゲノム編集は今日、患者に対して研究が行われている。
胚あるいは配偶子のDNAに変更を加えることにより、疾患原因変異を有する親は健康で、遺伝的つながりのある子どもを持つことができる可能性がある。しかし、胚や配偶子に対して次世代に遺伝するゲノム編集を行うことは、評価が困難なリスクを生み出す。初期段階の胚のいくつかの細胞にしか変更が行われず、そのため編集されていない細胞により疾患が身体全体に広がるのではないかという懸念も残っている。特定の性質の変更が他の性質に予期しない影響をもたらす可能性があり、このような影響は、人によって異なったり、環境的な影響に応じて異なったりすることがありうる。
遺伝的変更によって生み出される影響の多様性により、利益とリスクの完全な評価を行うことが困難となる。とはいえ、生殖系列のゲノム編集は、これらのリスクが対処され、それ以外のいくつかの基準が満たされた場合には、将来的には許容されうる可能性がある。これらの基準としては、厳格な第三者的な監視体制、説得力のある医学的ニーズの存在、合理的な代替選択肢の欠如、長期的なフォローアップ体制の計画、社会的影響への配慮などが含まれる。もっとも、市民による許容可能性は国や地域によって異なる可能性が高く、異なる政策的反応が生じるであろう。
開催委員会は、臨床実践に必要とされる科学的理解や技術的要件があまりに不確かであり、またリスクがあまりに大きいため、生殖系列の編集の臨床試験は現時点では許されないと結論する。しかしながら、過去3年間の進歩と、今回のサミットにおける議論によって示唆されるのは、そのような臨床試験への厳格で責任のあるトランスレーショナルパスウェイ(基礎研究から臨床研究への道程)を定義するときに来ているということである。
トランスレーショナルパスウェイの提案
生殖系列の編集へ向けたトランスレーショナルパスウェイは、過去3年間に公表されたゲノム編集のガイダンス文書において述べられている諸基準[注1]を含め、臨床研究に関して広く受け入れられている諸基準を遵守することが必要とされる。そのようなパスウェイに必要とされるのは、前臨床的なエビデンスや遺伝子改変の正確さのための基準を確立すること、臨床試験の実施者の能力の評価、専門家としての行動に関する実行可能な基準、患者や患者団体とのしっかりした協力関係である。
生殖系列ゲノム編集の臨床利用の報告について
このサミットで我々は、ヒト胚が編集され子宮に戻され、その結果妊娠と双子の誕生がもたらされたという、予期しない、また非常に問題のある主張を聞いた。我々は、第三者的な評価を行ってこの主張を検証し、主張されているようなDNAの改変が起きたのかどうかを明らかにすることを勧告する。仮に改変の事実が本当であるとわかったとしても、このような臨床研究は無責任であり、国際的規範に従っていない。その問題点としては、不適切な医学的適応、不適切な研究計画、研究参加者の福祉を守るための倫理的基準を満たしていないこと、臨床的手続の開発・審査・実施における透明性の欠如などが含まれる。
継続的な国際フォーラム
開催委員会は、継続的な国際フォーラムを開催することにより、広範な公共的対話を促進し、公平なアクセスを拡大することで適切なサービスを受けていない人々のニーズを満たすための戦略を開発し、ガバナンスの選択肢に関する情報センターとしての機能を提供し、規制のための共通の基準の開発に貢献し、計画中および実施中の実験に関する国際的登録制度を通じて研究と臨床応用の調整を強化することを求める。
国際フォーラムの設立に加えて、開催委員会は、世界中の科学および医学に関する国家アカデミーと学術団体が引き続き国際サミットを開催する実践を継続し、ゲノム編集の臨床利用の検討を行い、多様な見解を集め、政策立案者による決定に際して情報を与え、勧告やガイドラインを策定し、さまざまな国や地域の間での協調を促進することを求める。
注1:例えば以下を参照せよ。National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, Human Genome Editing: Science, Ethics, and Governance (Washington, DC: The National Academies Press, 2017) and Nuffield Council on Bioethics, Genome Editing and Human Reproduction (London: Nuffield Council on Bioethics, 2018).
開催委員会
デヴィッド・ボルティモア他、全14名(略)