え、こだまの世界?

A day in the life of...?

読んだ本

太陽の季節

太陽の季節

この年頃の彼等にあっては、人間の持つ総ての感情は物質化してしまうのだ。最も大切な恋すらがそうでなかったか。…。父と子の情愛にしろ、友情にしろ皆同じではなかろうか。が唯、彼等は皆母親には甘えっ子であった。…。友情と言うことにせよ、彼等は仲間同士で大層仲は良かったが、それは決して昔の高等学校の生徒達に見られたあのお人好しの友情とはおよそかけ離れたものなのだ。彼等の示す友情はいかなる場合にも自分の犠牲を伴うことはなかった。その下には必ず、きっちり計算された賃貸対照表がある筈だ。何時までたっても赤字の欄しか埋まらぬ仲間はやがては捨てられて行く。彼等の言動の裏には必ず、こうした冷徹で何気ない計算があった。(35-36頁)

義理人情とは無縁の、エゴイスティックな、しかしマザコンな若者。「彼等はもっと開けっ拡げた生々しい世界を要求する。一体、人間の生のままの感情を、いちいち物に見たてて測るやり方を誰が最初にやり出したのだ」(38頁)。自然対人為。

彼にとって大切なことは、自分が一番したいことを、したいように行なったかと言うことだった。何故と言う事に要はなかった。行為の後に反省があったとしても、成功したかしなかったかと言うことだけである。自分が満足したか否か、その他の感情は取るに足らない。それ故彼は"悪いことをした"と自らを咎めることが無かった。彼には罪を犯すことが有り得ないのだ。(53頁)

社会規範とは別の、自分が満足できるかどうかという基準で判断し、生きる。誰にでもあるフェーズと言える。若者の論理。
丸山眞男の1946年の論文よりは現代との距離が近くて理解可能だった。全体のドライさ、残酷さも印象的。当時は衝撃的だったようだが、今読むとそこまで衝撃的には感じないが、それはわたしがもう若くないからか、あるいはこの小説に書かれていることが当たり前になったからか。いずれにせよ、優れた青春小説であることには間違いない。