以下、事前に準備したスピーチ。読点が多いのはゆっくり読むため。( )は付け足し。
- 作者: 児玉聡
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2010/11/26
- メディア: 単行本
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ただいまご紹介にあずかりました、児玉聡です。今回はこのような、栄えある賞をいただき、まことに光栄に存じます。
(スピーチが下手なので、原稿を読ませていただきます。先日、スピーチの勉強をするために「英国王のスピーチ」を見たところ、英国王のジョージ6世も原稿を読んでいました)
本書をまだ読まれていない、会場のみなさま方のために、本書の内容を、簡単にご紹介したいと思います。
本書は、18世紀から、現在までの英米の倫理思想について、たいへん不完全ながらも、俯瞰的にスケッチしたものであります。出版社の意向もあり、入門書の体裁を取っておりますが、その意図としましては、英米倫理学の思想史の書き換えを、試みたものであります。
本書の重要な特徴は、二つあります。一つは、これまでの英米倫理思想史では、ムーア以前と、ムーア以後とで話が断絶していました。そのため、19世紀末までの倫理思想と、20世紀以降の分析的な倫理学のつながりがわかりませんでした。本書はそのギャップを埋めようとしています。これが一つ目の特徴です。
もう一つは、現在の英米の倫理学における主要な対立軸は、功利主義対カントの義務論という構図になっています。そして、とりわけ政治哲学においては、「功利主義はカント主義者のロールズによって乗り越えられた」という話になりがちです。しかし、本書をまとめる中で、わたしは、これは反功利主義者によって都合よく書かれた歴史、いわば「カント=ロールズ史観」なのではないか、と考えるに至りました。そこで、このような歴史観は、あくまで現在流行の説明にすぎず、功利主義と直観主義の対立、という大きな流れの中で見直す必要がある、という考えが本書では示唆されています。これが二つ目の特徴です。
今の二点をまとめますと、19世紀以前の倫理思想と、20世紀以降の倫理思想の架橋をして、それによって現在のドミナントな倫理学理解を揺さぶる、というのが、本書の大きな試みです。言い換えますと、功利主義にとっていささかアンフェアな思想史理解を是正しようという意味で、本書は「新しい倫理学の教科書を作る会」、の作品だと言えます。
(そのつもりだったのですが、先日、知り合いの大学院生から「本書を読んでますますロールズが好きになった」というコメントをもらい、えーっと思いました)
ただし、本書は、時間と能力の不足により、いろいろな不備を抱えております。とくに、カントに関する記述が不足している、というのは早くから自覚しているところです。今後は、カントが英国の功利主義対直観主義の論争に、どのような影響を与えたのかについて、研究したいと考えております。
最後に、本書を書くにあたっては、さまざまな方にお世話になりました。詳しくは本書の「あとがき」をご覧ください。ここでは、選考の労をとっていただいた、和辻賞選考委員の先生方に深く御礼申し上げます。
なお、副賞につきましては、今夜の二次会で使ったりせず、また、もうすぐ発売されるという噂の、新しいiPhoneを買うためにも使ったりせず、今回、東日本大震災で被災された方に寄付することにいたします。
以上で終わります。ご静聴ありがとうございました。