え、こだまの世界?

A day in the life of...?

いただいた本2

人命の脱神聖化

人命の脱神聖化

先日ようやく出版された翻訳。長い間シンガーと一緒に仕事をしてきたヘルガ・クーゼが、シンガーの代表的な論文を集めた珠玉のアンソロジー(翻訳は抄訳)。2,3年前に某同僚の翻訳を手伝った関係で、後書きに名前が出てくる。

序文はクーゼがシンガーの立場を解説したもので、よく書けている。翻訳もOK。

正しく根拠づけられた道徳理論から出てくる結論であれば、たとえ重大な問題についてのそれまでの道徳観を変えざるをえなくなろうとも、我々はそれを受け入れるという姿勢を守るべきである。この点を見失うと、道徳哲学はもはや世間的な道徳規範を根本から批判する力を失い、現状維持に奉仕するだけのものとなる。p. vii (シンガーの文章から)

議論が導くままに進め。

ジョン・ロールズが、この少し前に有名な『正義論』を出版していたが、シンガーは、ロールズの方法に潜む危険性を示さなければならないと感じたのである。ロールズは、個々の様々な状況で人々がどのような道徳判断を下すかということをデータとし、それに照らして道徳理論の正しさを確かめるという方法をとる。ロールズの方法は、世界を変えようとするシンガーにとって、あまりにも無批判的で保守的だった。シンガーはこう書いている。直観的な判断は、「すでに放棄された宗教的な制度に由来するものであったり、性と身体機能に関する歪んだ見方から生じたものであったり、今では遠い過去のものとなった社会的・経済的状況で特定の集団が生き残るために必要とした習慣にその根を持つものであったりすることが多い」。そこで、ロールズに対する反論として功利主義者のシジウィックを持ち出して、シンガーは「個々の状況での道徳判断についてはすべて忘れてしまうのが一番よい」と結論する。シジウィックがしたように、「基本的な道徳原則を探求し、それにもとづいて道徳理論を構築すべきである」。(p. xi)

まあ、ロールズはリベラルデモクラシーという既存の制度を基礎付けるという、常識道徳の基礎付けを行ったカントのグルントレーグングと同じような目的があったから、保守的に見えるのは仕方ないかもしれない。が、基本的にはシンガーに賛成。