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岩波新書って…

「尊厳死」に尊厳はあるか―ある呼吸器外し事件から (岩波新書)

「尊厳死」に尊厳はあるか―ある呼吸器外し事件から (岩波新書)

前半では射水市民病院事件の元外科部長とのやりとりから、元外科部長がパターナリスティックで医療倫理に悖る人物であったことを示唆している。後半は尊厳死法の立法の動きや救急医学会のガイドライン制定の動きなどの批判。医療水準および医療倫理のばらつきが大きい日本では、このような、医師の法的責任の免責を目的とし、場合によっては本人の同意も必要ない(家族の同意で足りる)とする法律やガイドラインでは、「いのちの線引き」すなわち弱者切捨てになる、という論旨のようだ。
内容がおもしろく、大変興味深く読んだものの、気になったのは、なぜこの本が岩波新書として出るのかということだ。新書の内容は多様化しているとはいえ、基本的には新書は専門的研究を一般読者にわかりやすく書くという啓蒙書の役割を担っているのではないのか。この本は前半はルポ、後半は医療・行政の動きを、かなり市民運動的な視点から批判しており、学問的な中立性はない。また、積極的安楽死、消極的安楽死の区別など、安楽死尊厳死の基本的なタームの説明もないので、素人にとってはハードルが高い。別にすべての本に学問的な中立性を求めるわけでもないし、ルポも市民運動も重要だと思うのだが、岩波新書でやることはないだろうというのが正直な感想。
まあ、人の批判をするだけでなく、自分でちゃんと書かないとな。