- 作者: 丸山真男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/01/20
- メディア: 新書
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要は、カタカナ言葉が氾濫し、難解なわりには無内容な「思想」が流行しているかに見える現在の日本で、平凡な真理を非凡な表現で語った『文明論之概略』が、この私の拙い解説を機縁として、一人でも多くの日本人に読まれることを希求して筆を擱く。viii頁
この序文が書かれたのは「1985年師走」とあるから、「ユーティリティアリアニズム」のことではないよな…。
「序 古典からどう学ぶか」
「古典離れ」の背景には二つの要素の複合が推察されます。第一は、客観的な基準とか確立された形式というものが手応えのある実在感を喪失した、という問題です。第二には、新刊・新品・新型をたえず追いかけないと気が済まず、そうしないと「時代遅れ」になるという不安感です。3頁
古典離れの一つ目の理由は古典が体現するフォーム(形式)に対する現代人の嫌悪、もう一つは目新しいもの好き、古臭いもの嫌いの態度。
第一はロマン主義的な(しかも日本の場合は「形式」は中国や西洋などの先進国から入ってくるので、ナショナリズム的な)反形式主義、あるいはポストモダンということか。日本人は形式、理論嫌いで情緒的、というのは真理だろうか、偏見だろうか。他国との比較の問題だし、実証研究がないとわからんよな。
第二はわかる気がする。朝刊を毎日読まないと不安で手が震えるよ。特に急いでなくても、地下鉄の乗り換えのときは走るし…。
古典に限らず、一般に日本人は、おそろしく読書好きの国民として知られていますが、読書量の何パーセントが実際に活動の精神的エネルギーになっているかという、入力と出力の比率をとってみると、あまり自画自賛しても居られないような気がします。7頁
ただゲーテを読む(「知っている」)だけではいけない。血肉化しなければいけない。しかし、社交をするためにはいろいろ知っていないと生きていけないんだよな。困ったもんだ。
16. 本を読まない技術は非常に重要である。肝心なのは、ある時に大衆の注目の的になっているものに手を出さないことである。 (中略) 良い本を読むための必要条件は悪い本を読まないことである。なにしろ人生は短かいのだから。
ショーペンハウアー『読書について』
聖書だけ読んでるわけにもいかんが、読むべき本はじっくり読み、どうでも良い本は飛ばし読みするようにしよう。しったかぶりする必要はないが、探さなければ名著に会えないことも銘記せよ。
古典を読み、古典から学ぶことの意味は--すくなくも意味の一つは、自分自身を現代から隔離することにあります。・・・私たちの住んでいる現代の雰囲気から意識的に自分を隔離することによって、まさにその現代の全体像を「距離を置いて」観察する目を養うことができます。9頁
なるほど、外国旅行と一緒だな。それで、日本にやって来た外国人が、日本について的外れな文明批評をするのと同じように、ベンタムやミルの時代にずっぽりとはまった研究者が、功利主義の現代的意義とか称して、「現代日本の民主政治はまったくなっとらん」と批判するわけだな。自戒、自戒。たしかに、現代(の日本)を相対化するのは重要だが、それで直ちに現代病理の処方箋を書けるようになるわけではない点に注意せよ。