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シビル・ミニマムの思想

シビル・ミニマムの思想

紀元前3000年ころ、農業文化の蓄積を背景とする人類の文明の誕生は同時に年の形成でもあった。都市を基盤として文明が成立したのである。文明の誕生と都市の形成は、農業を原型とする文化cultureに対比されるcivilizationという言葉がしめすように同義であった。、、、20世紀にいたるまで都市は、農村が普遍的であるのにたいして、例外的存在であった。都市はいわば村共同体の海のなかの孤島であった。しかも都市は農業生産物の余剰に依存してはじめて存立しえたのである。、、、だが工業の主導のもとに農業をもふくめて生産力の飛躍的発達をみた20世紀にはいって、工業先進地帯では、人口のプロレタリア化が急速にすすんで都市人口が急激に膨張するにいたった。欧・米・日では今日、ほぼ8割前後の人口が都市人口に転化したのである。、、、それゆえ、都市を問題にするにあたっては、現代はこのような「汎都市化」ともいえる文明史的な意味での新しい段階にはいっていることを、まず認識する必要がある。179-180頁

話が大きいなあ。文明論なんだな。なるほど、工業社会は汎都市化をもたらす、と。

マルクスは工業生産力の発達は都市と農村との対立を止揚するであろうと予言したが、今日その段階にはいりつつあるといって過言でない。この意味でこそ汎都市化は文明史的な新段階なのである。それゆえ、われわれは社会像の転換の時期にたっている。都市と農村、工業と農業という伝統的な二分法発想から脱却すべき時点にたったのである。181頁

今日の都市問題は何よりも農業社会から工業社会への移行期の普遍的問題として、位置づける必要があろう。、、、こうして今日、工業化の成熟にともなう汎都市化は、第一に社会の構造変動、第二に都市問題の激化という二重の意味においてダイナミックな政治変動をうみだしている。183頁

なるほど。今日のグローバリゼーションも同じような文明史的な変化なんだろうか。

このような都市において、余暇と教養をもつ「市民」が誕生する。

現代民主主義は、このような都市に蓄積された大量の市民を前提としてはじめて可能になる。、、、余暇がはじめて公共生活に参加するチャンスを保障し、教養がはじめて公共政策を選択するチャンスを保障する。余暇と教養が《市民的自発性》の条件なのである。186ページ

こうして日本における工業化の進行は、新憲法による民主主義の制度化とあいまって、都市を中心に市民的人間型を大量にそだてあげてきたといえよう。伝統的エートスとしてのミザル、キカザル、イワザル、ついで天皇制的エートスとしての滅私奉公が今日では崩壊し、自発性による参加と選択という市民的エートスが現代市民倫理として確立しはじめた。田吾作ないし臣民から、日本の国民はいまや市民へと大量に転換しつつある。187ページ

Where have all the citizens gone? 公共性の復活を叫びたくもなるわけだ。

もちろん市民的自発性の成熟のこのような現代的条件を裏がえしてみれば、またその崩壊の条件でもある。市民的自発性はいつでも空洞化して愚民的受益性に転化する可能性をもっている。ローマのプロレタリアはパンとサーカスによって堕落していたが、その現代版の危険性はつねにみられる。、、、マイホーム主義とよばれる市民的自発性の崩壊は、都市改革ないし新しい生活様式のデザインという課題を空転せしめる。188ページ

工業化とそれに伴う汎都市化はほとんど不可逆的といえるが、公共心を持った市民の生産と再生産は不可逆的ではない。とすれば、どうすればいいのか。

したがって、ここで、的確な政治指導の提起が必要とされる。ことに、複数政党制を前提とした相互の政策批判、それによる都市政策の樹立が、この都市改革ないし生活様式のデザインの起爆力とならなければならない。188ページ

う〜ん、これが正しい処方箋なのかな。都市化だけでなく、マスメディアとくにテレビがもつ影響、今日であればネットや携帯が「市民的エートス」に対してもつ影響についても考えないといけないんだろうか。商店街の荒廃とかもか。

なるほどねえ。生活環境、あるいは都市計画が健康にもたらす影響なんて研究もあるが、生活環境が民主主義、あるいは「市民的エートス」に対してもたらす影響か。こういう問題関心がパトナムにつながるのかな。

先進工業国に共通に見られる問題は、(1)都市民主主義の崩壊(都市のスラム化、郊外化)、(2)中央集権化の誘発。そこで市民による自治体の復興(地域民主主義)が訴えられる。204-5頁。しかし、その地域民主主義の担い手はどこからやってくるのだろうか。
自治体改革の三原則(1)直接民主主義の実現(2)市民による自治体管理(3)中央権力の民主的改造
自治体改革の五課題(1)市民的自発性の喚起(2)市民生活の保障(3)地域開発の実現(4)自治権の拡充(5)自治体機構の民主的能率化と民主的広域化、206ページ
都市専門家の必要性。「(1)都市科学の形成、(2)都市専門家の育成とその職業倫理と自主管理機構の確立、ついで(3)政党による責任ある政策形成が、都市改革の不可欠の前提であることが位置づけられよう。市民参加は裸の情熱たりえないのであり、専門情報との組織論的循環が必要なのである」212ページ

都市が現代の生活様式したがってまた社会形態を意味するかぎり、都市自体の改革は人間の改革となって市民的エートスの成熟をもたらしうるであろう。213ページ

都市が変われば、市民も変わるというのは、もっともらしいが、民主主義に対する処方箋としては今一つ具体性がない。もう少しこのメカニズムを実証的に明確にし、具体的なプランを立てるのに役立てる必要がある。